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「助け合う心」
大相撲九州場所は白鵬の全勝優勝で幕を閉じた。同時に白鵬は年間86勝の大記録を打ち立てた。年6場所90番でわずかに4敗。圧倒的な強さと言っていい。しかしその陰でもう一人、ある意味で偉大な記録を産んだ力士がいる。
地元九州の人気大関、魁皇である。幕内通産806勝を挙げ北の湖を抜き歴代2位となったことだけではない。なんと彼は年間6場所すべてにおいて8勝7敗という驚くべき八百・・安定感を見せたのだ。
 魁皇の平成21年全成績
09九 ☆ 8− 7 ○●○●●○○○○○●●●●○
09秋 ☆ 8− 7 ○●○●○●○○○○●●●●○
09名 ☆ 8− 7 ●○○●●○○○●●○●○○●
09夏 ☆ 8− 7 ○○●○○○○○●○●●●●●
09春 ☆ 8− 7 ●○○○○○○●○●○●●●●
09初 ☆ 8− 7 ○○○●○●○●○○●○●●●
さらに、もう一つ興味深いデータを見ていただこう
過去5年間で7勝7敗で千秋楽を迎えた大関の成績
平成15年 9月 秋場所 ●魁皇 朝青龍(横綱)○(優勝)
平成16年 9月 秋場所 ○千代大海 若の里(関脇)●
平成18年 3月 春場所 ○魁皇 白鵬(関脇)●
平成18年 5月 夏場所 ○琴欧州 千代大海(大関)●
平成18年 7月 名古屋場所○琴欧州 栃東(大関)●
平成19年 1月 初場所 ○魁皇 栃東(大関)●
平成19年 3月 春場所 ○魁皇 安馬(小結)●
平成19年 3月 春場所 ●千代大海 朝青龍(横綱)○(準優勝)
平成20年 1月 初場所 ○琴光喜 安美錦(関脇)●
平成20年 3月 春場所 ○琴光喜 千代大海(大関)●
平成20年 5月 夏場所 ○琴光喜 魁皇(大関)●
平成20年 9月 秋場所 ○琴欧洲 千代大海(大関)●
平成20年 11月 九州場所 ○琴欧洲 千代大海(大関)●
平成21年 1月 初場所 ○千代大海 豪栄道(前頭三)●
平成21年 5月 夏場所 ○千代大海 把瑠都(関脇)●
平成21年 5月 夏場所 ○琴光喜 魁皇(大関)●
平成21年 7月 名古屋場所○千代大海 鶴竜(関脇)●
平成21年 9月 秋場所 ○魁皇 琴光喜(大関)●
平成21年 11月 九州場所 ○魁皇 琴光喜(大関)●
なんという大関陣の土壇場でのやお・・精神力、粘り強さであろうか。
証拠があるわけではないのであまり邪推するのも良くないが、大関同士で協力し合ってなるべく長い間大関という地位に居続けようという趣旨の、俗に言う「大関互助会」の存在を指摘する声は昔からあり、それが顕著になってきたと言わざるを得ないのが魁皇、千代大海(ついに今場所陥落してしまったが)の昇格以後である。ちなみに大関の月給は234万7千円、横綱では282万円。もちろん現大関陣たちも横綱を目指さなかったはずはないのだろうが、勝てなくなればすぐに事実上引退を求められる横綱に比べて大関は2場所連続で負け越さなければよいのだから、金銭面では長い目でみれば大関の方が「お得」である可能性は高い。ただ、昇進した際にすでに30代になっていた琴光喜はともかく、かつては横綱を期待されていた琴欧州さえもケガの影響などもあり、だんだんと「互助会メンバー」に染まりつつある感があるのは残念である。
一つ断っておきたいのは、僕は魁皇と千代大海が嫌いなわけではない。むしろ個人的に大関にとって一番重要な要素だと思っているキャラの立ち具合を見れば歴史に残る名大関だとすら思う。得意の右上手に持ち込んだ時の力強さが光る魁皇、外見どおりの豪快な押し相撲と「組んだら序二段」と揶揄される4つ相撲でのもろさが同居する千代大海。そこにいくばくかの星のやりとりがあるとしても、いや、あるとすればその政治力も含めて、彼らの個性の強さは我々が子どもの時にみていたかつての名大関である小錦や霧島に勝るとも劣らない。
解説者やコラムニストからは、晩節を汚すなという厳しい声も上がりはじめているが、この愛すべき二人の名大関の、決して残り長くはない現役生活における最後の意地を、ニヤニヤしながらしっかりと見届けたいと思っている。
田村 直人
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